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2020年2月26日 (水)

誰かにわらいかけること

きのう、久しぶりに天神に出た。歩いていると、一か月前におなじく天神で起きたちいさな出来事を思い出して、日記をめくった。


久しぶりに天神に出た。きょうはやけにビル風がつめたい。目的地に向かって歩いていると、ボロボロの自転車を押しているおじさんとふいに目が合った。このちいさな出来事はたぶん、これからもわたしの中に残りつづけることになるだろうから、こうして記しておく。これは美談でもなんでもないので、事実をそのまま書くことにする。

その後、信号待ちをしていたらそのひとが近づいてきて、「おねいちゃん」 とうしろから声をかけられた。「ハイ」 と振り向き、話をきく。そのひとはこれから九州を自転車で旅してまわる予定で、その資金稼ぎのために小さなお菓子を売って歩いているそうだ。「おねいちゃんも、ひとつ、どうですか?」なぜか、日本語がかたことにきこえる。そのひとは、まっすぐにこちらを見てくる。信号が青になり、向こうから人波が押し寄せてくる。わたしは気がついたらそのひとに「すみません。いま急いでいて」と告げていた。実際に、用事はさしせまり、わたしは急いでいた。そのひとは「そう。じゃ、また、見かけたら」と思ったより軽やかに言って、去って行った。だけど、横断歩道を駆け出してすぐに、わたしはその人のところへ戻りたくなったのだ。あたりを見回すけれど、そのひとはもうどこにもいない。泣きそうになりながら駆け足で道路を横切る。

「がんばってください」とぶきっちょでもいいからわらいかけて、お菓子を受け取りたかったのだ。たとえ自転車の旅がめちゃくちゃなデタラメでもかまわなかった。ただ「がんばって。わたしもがんばるから」と言いたかったのだ。それなのに、それができなかった。自分に正直であるということがどれほどむずかしいことか。ぐらぐらの基盤の上にはどんなものも成り立たない。誰かにすこしわらいかけることには、とても勇気がいる。

そのひとがこれから行くであろう道のわきに、ささやかな花が咲きみだれていることをせめてもと祈る。


 

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春休みになったら咲こうと決めていた

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コメント

いつも楽しみに読んでます!

投稿: | 2020年3月 1日 (日) 23時30分

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